深読み☆LGBT映画
『噂のふたり』

みなさん、こんにちは。コラム「深読み☆LGBT映画」担当の深谷ヨミです。

さて、今回ご紹介するLGBT映画は『噂のふたり』。

『噂のふたり』(原題:children's hour)
Source: http://www.mgmchannel.com/ (C) William Wyler/Twentieth Century Fox Film Corporation ALL RIGHTS RESERVED

 

1961年に制作されたこの映画、なんと『ティファニーで朝食を』の撮影を終えたばかりのオードリー・ヘプバーンが出演しています。白黒の映画はなんだかちょっと……という方でも、オードリー・ヘップバーンの演技と美貌を堪能できる本当によい作品なのでぜひ観てもらいたい一本なのです。

【2人の間に囁かれた噂とは?】

オードリー・ヘプバーンが扮するのは女教師カレン。

(C) William Wyler / Twentieth Century Fox Film Corporation ALL RIGHTS RESERVED
Source:”Children’s Hour” (C) William Wyler / Twentieth Century Fox Film Corporation ALL RIGHTS RESERVED

長年にわたり交際のある恋人ジョーとの結婚を目前に控えた彼女は、幼馴染の親友マーサと共に全寮制の女学校を経営し、同時に教師もしています。

ある日カレン先生に叱られたわがままな生徒が「カレンとマーサ、2人の女教師は恋人同士」という嘘をついてしまいます。その噂は、瞬く間に街に広がり、カレン、マーサ、カレンの恋人のジョーの3人の人生を翻弄する……というのが、物語の簡単なあらすじ。

たった一人のそれも子供の嘘が大人達を翻弄し、主人公たちの人生を狂わせてしまうんですね。

……しかしながら、火のないところに噂は立たぬとも申します。

オードリー・ヘップバーン扮するカレン、シャーリー・マクレーン扮するマーサ。2人の美しい女教師の間には本当に「なにも無かった」のでしょうか?

というわけで、今回はこの『噂の二人』を深読みしていきましょう。

【美しき2大女優による百合?映画】

オードリー・ヘップバーンについては皆さんご存知だと思うのですが、マーサ役のシャーリー・マクレーンについて念のためご紹介を。

シャーリー・マクレーンは1955年からアメリカで活躍している女優で、1983年の映画『愛と追憶の日々』でのアカデミー賞主演女優賞をはじめとして、数々の賞を受賞している往年の大女優です。最近では2008年の映画「ココシャネル」で晩年のココ・シャネルを演じているので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか?

Shirley MacLaine
Shirley MacLaine  Source:http://lilylemontree.blogspot.jp/

『ココシャネル』ではおばあさんだったシャーリー・マクレーンもこの映画では27歳。『アパートの鍵貸します』やヒッチコックの『ハリーの災難』などコミカルな役柄での出演の多い彼女ですが、この映画では気丈な、しかし本当はとても傷つきやすい女性をとても上手く演じています。誰かと一緒にいるときには人一倍明るく振舞っていても、一人になるととても寂しい表情をする……

このマーサという女教師の役柄は、彼女の不完全さに親しみが持てる、リアルな女性なんですね。

高校時代から大親友のシャーリー・マクレーン扮するマーサと、オードリー・ヘップバーン扮するカレンは、仕事だけでなく、女学校の寮に一緒に暮し、生活も共にしています。二人の関係はあくまでプラトニック。お互いを親友として大切に想い合っています。

ここからが面白い展開なのですが、生徒の「二人は恋人同士だ」という嘘をきっかけに、マーサのカレンに対する感情揺れ始めるんです。「あれ?私、本当はカレンのこと、どう思ってたのかしら?本当にただの親友として彼女が好きだったのかしら?」というように。

この映画のタイトルは『Children’s Hour』。

学生時代から続く無垢なヒロイン2人の親友であった時間=「子供の時間」は、一つの嘘から始まる波紋によって一つの転換点を迎えるのです。

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Source:”Children’s Hour” (C) William Wyler/Twentieth Century Fox Film Corporation ALL RIGHTS RESERVED

実は1934年に書かれた原作の戯曲では、マーサ役の方が、オードリー・ヘップバーン扮するカレン役よりも目立つ配役になっています。つまり、物語の出来事によって翻弄され、苦しみ、悩み変化していく……マーサの方にそういった物語のハイライトが置かれているんですね。

しかし、この映画では、オードリー・ヘップバーンの演技と彼女の持つ普遍的な美しさが、カレンの役に、脚本だけでは付与できない意味合いを与えています。美しく、性格も良くて生徒想い、仕事にも熱心な女性。そんな完璧な女性がずっとそばにいたら、好きのベクトルが友情なのか恋なのか

わからなくなってしまうのも無理ない気がします(笑)

だから、マーサの親友のカレンに対する想いや悩みに、誰もが共感できるような説得力がありますし、カレンの役柄は女性の美しさや誰もを惹きつける魅力の象徴として生きてくるんですね。カレンへの想いに苦しむ普遍的な弱さを抱えた女性マーサ、親友の苦しみによって苦しむ憧れや美の象徴であるカレンという2大ヒロイン。この絶妙なバランスは、この美しき2大女優だからこそのものだと思います。

シェイクスピアの戯曲『ヴェニスの商人』の金貸しのユダヤ人「シャイロック」が、演じ方によって単なる「悪徳の高利貸し」にも、「イタリア社会で生きるマイノリティー=悲劇のユダヤ人」にもなるように、役者の演技や演出によって原作の新しい側面を見つけることができるのが、映画の楽しみの一つですよね。そういう意味で、この『噂の二人』は大変成功した作品だと思います。

【嘘をついた生徒は憎たらしい…でも目が離せない】

さて、2人の主演女優も素晴らしいですが、私が個人的にかなり素晴らしいと思うのはこの嘘をついた女生徒のメアリー。本当に嫌〜な子供なんです。学校のパトロンである大金持ちの孫で、自分の都合の悪いことがあると、嘘もつくし友人を揺すって偽証までさせる。一見無邪気な子供に見えて、中身はまるで悪徳政治家のよう(笑)

(C) William Wyler / Twentieth Century Fox Film Corporation ALL RIGHTS RESERVED
Source:”Children’s Hour” (C) William Wyler / Twentieth Century Fox Film Corporation ALL RIGHTS RESERVED

メアリーを演じるのはカレン・バルキン。なんと当時のアメリカのテレビ局CBSのジェネラルマネージャーであったシドニー・D・バルキンの娘で私生活でもお金持ちのお嬢様です。以下のネタバレの項目にもあるのですが、この役、実はアメリカの権力を象徴するような役どころなんですね。そう考えると、彼女のこのキャスティングはとても象徴的なものに思えます。

リアルでも高慢な子供だったのか、その辺りはわかりませんが、彼女の演技は、映画史に残る子役といってもよいほどナチュラル(笑)

きっと皆さんもこの映画を見たら、本当にこんな子供がいたら嫌だなあと思いつつも、その真に迫る演技に目が離せないはずですよ。

さて、ここからは嘘が広まってからのマーサとカレンについて詳しく話していきます。本作のエンディングにも関わってきますので、ネタバレOKな方のみ読み進めてみてください!

【LGBT批判の裏にあるもの(ここからネタバレあり。注意!)】

さて、実はこの物語には、元となった事件があります。

19世紀末にスコットランドの女学校で起きた事件で、2人の女教師が生徒からレズビアンだと告発されたんですね。

実際の事件では告発された側の教師2人が訴訟を起こし、のちに勝訴。汚名を挽回しました。

しかしこの物語では、ヒロイン2人は名誉毀損の裁判に敗訴。社会的には立ち直ることのできないところまで、追い詰められてしまいます。

(C) William Wyler / Twentieth Century Fox Film Corporation ALL RIGHTS RESERVED
Source:”Children’s Hour” (C) William Wyler / Twentieth Century Fox Film Corporation ALL RIGHTS RESERVED

のちにこの噂が嘘だったとわかったあと、嘘をついた生徒メアリーの大金持ちのおばあ様は、二人のもとを訪れて、謝罪をするんですね。

「新聞に謝罪の記事も掲載するし、慰謝料も全額支払う。あなた方が元どおり生活できるようにできる限りのことをさせて欲しいんです。お願いです」……というふうに。

でも、主人公のカレンはこう言います。

「謝罪文とお金で心が休まるのね……でも私たちは何も受け取りません」

一説にはこの映画は、主人公たちの姿を通して、「レッドバージ」批判をしているとも考えられています。

アメリカのレッドバージ=赤狩りの時代には、アメリカ国内の共産主義者や共産党を容認する思想を持っていると疑われる者が、次々と公職を追われたり、国外追放されたりしました。

そして、中でもハリウッドは特に厳重な監視を受けました。

『ローマの休日』の脚本家のダルトン・トランポもアメリカ共産党員であったために、作家活動ができなくなり、友人の名義を使って『ローマの休日』を発表しました。また喜劇王チャップリンもその作品のリベラルな思想を問題視されて、アメリカから追放されています。

だれもが悪意に満ちた「噂」の対象となった時代。

特に中国の周囲の国、アジアの国々の外交官は次々に辞めさせられ、日本などアメリカの同盟国の外交官ですら、国家権力によってその職を追放されるということがおこりました。

追放されたアジアの外交官のポストを務めたのは、共産主義者の疑いはないけれども、アジア外交のノウハウもない外交官たち。

熟練したアジア外交官の欠員は、のちにアメリカの対アジア外交の道を誤らせ、泥沼のベトナム戦争に突入する遠因となったとも言われています。

奇しくもこの映画が封切られた1961年、アメリカ大35代大統領ジョン・F・ケネディが大統領に就任しました。ケネディのベトナム内戦への派兵拡大が、ベトナム戦争を激化させたとして議論を呼んだのはご存知の通りです。

もちろん、共産主義者と疑われた人々が全て無垢だったか?ということについては議論の余地があります。しかし、権力によって無垢な人々も謂れのない疑いをかけられたこと。そしてその中で彼らの名誉、人生、そして命が失われてきたことは、どんなに権力が謝罪をしても贖えるものではない……そういった強い怒りをこの映画は訴えているのかもしれません。

この映画では罪のないものを傷つける権力という物語の構造を作るため、二人のヒロインの無垢な関係を強調しています。オードリー・ヘップバーンがシャーリー・マクレーンの髪を梳かすといったちょっとした百合っぽいシーンもカットされていることにもそういった理由があると考えることができます。シーンのカットは少々残念な気もしますが、LGBT差別への問題提起を通して、その他の社会的な問題についても問題提起する、美しい2人の大女優が活躍する本作は、ただ美しいだけではなく、実はとてもメッセージ性の強く意思のある作品だったんですね。

最後にマーサを演じた、シャーリー・マクレーンは数十年後、ドキュメンタリー映画『The celluloid closet』(2001年)の中で、こんなふうに述べています。

「マーサは戦わなければならなかったのよ。カレンを本当に愛していたのならね。」

Source:”Celluloid Colset” (C) Rob Epstein/Jeffrey Friedman/Howard Rosenman ALL RIGHTS RESERVED
Source:”Celluloid Closet” (C) Rob Epstein/Jeffrey Friedman/Howard Rosenman ALL RIGHTS RESERVED

時代は徐々に変わっています。

1961年の昔に作られた本作を読み解くことで、

そんなLGBTをめぐる映画史の一端を感じられるかもしれません。

というわけで、今回の深読み☆LGBT映画はここまで。

話の流れ的に全然触れられなかったのですが、カレンの恋人役のジェームズ・ガーナーもいい味を出しています。

『噂の2人』は、レンタルにも置いてあることの多い作品ですので、オードリー・ヘプバーンとシャーリー・マクレーンの美しい友愛の世界をぜひご覧になってみて下さいね。

次回もどうぞお楽しみに!

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著者:深谷ヨミ

ごく普通の三十路のレズビアン。幼少期にモテ期が過ぎてしまったため今は絶賛恋活中(笑)美術大学卒業後、出版社、事務職などで働く傍、執筆活動を行う。

 

*参考文献

  1. 映画『The Celluloid Closet』 (1995)

*掲載されている映画の画像については以下より引用させていただきました。

  • https://www.amazon.com/
  • http://www.mgmchannel.com/
  • http://lilylemontree.blogspot.jp/

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